札幌地方裁判所 昭和53年(行ウ)7号 判決 1979年7月17日
原告 森山貞雄
被告 大江政雄
主文
一 被告は、浜益郡浜益村に対し金三〇万円及びこれに対する昭和五三年四月一九日以降右完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。
二 訴訟費用は被告の負担とする。
事実
第一当事者の求めた裁判
〔請求の趣旨〕
主文と同旨
〔請求の趣旨に対する答弁〕
一 原告の請求を棄却する。
二 訴訟費用は原告の負担とする。
第二当事者の主張
〔請求原因〕
一 原告は、浜益郡浜益村の住民であり、被告は、同村の村長である。
二 訴外浜益自動車運送株式会社(以下、「訴外会社」という)は、被告個人を被告として、札幌地方裁判所昭和五二年(ワ)第一三四九号損害賠償請求の訴(以下、「本件別訴」という)を提起した。
三 被告は、本件別訴につき弁護士坂下誠に訴訟委任し、昭和五二年七月二七日右委任着手金として金三〇万円を浜益村予算から支出し、同弁護士に支払つた。
四 しかし、右支出は浜益村と同弁護士間に支出原因となるべき法律関係がないから違法であり、被告は、右違法な支出により浜益村に対し金三〇万円の損害を与えたのでこれを賠償する義務がある。
五 原告は、昭和五三年一月一〇日浜益村監査委員に対し、被告に対する措置請求をしたが、右請求は昭和五三年三月一〇日却下された。
六 よつて、原告は、地方自治法二四二条の二に基づき浜益村に代位して損害賠償請求として、被告が浜益村に対し金三〇万円及び本件訴状送達の日の翌日である昭和五三年四月一九日以降右完済に至るまで年五分の割合による遅延損害金の支払をなすことを求める。
〔請求原因に対する認否〕
一 請求原因一、二の事実はいずれも認める。
二 同三中、被告が浜益村村長として同村予算から弁護士坂下誠に対し金三〇万円を支払つた事実は認めるが、その趣旨は後記被告の主張に述べるとおりである。
三 同四、五は争う。
〔被告の主張〕
一 訴外会社は、本件別訴において、浜益村が、昭和五二年度の廃棄物収集運搬請負契約締結のため、指名競争入札を行うにあたり、同村の指名業者選定委員会が四業者を選び、これを受けて被告が村長として右四業者を指名業者として決定したところ、右決定には訴外会社が含まれていなかつたことから、被告個人の行為として訴外会社を理由なく指名から除外した点で不法行為を構成すると主張した。
二 しかし、右入札に関する被告の一連の行為は、村長として行つた行為であつて個人責任が発生する余地はなく、また訴外会社は、本件別訴と別に、浜益村を被告として、右と同一の入札実施の行為につきその違法を主張して札幌地方裁判所昭和五二年(ワ)第二八号損害賠償請求事件を提起しており、結局訴外会社は、被告個人を被告とする本件別訴においても、村の行政行為としての違法性を主張しているものであり、これは村の行政行為に対する不当ないいがかりであつて、村としては、本件別訴に対し、訴訟全体が村政に与える影響から、被告個人とは別個の独自の関心と利害を有するものである。
三 そこで、浜益村は、弁護士坂下誠との間で昭和五二年七月一五日本件別訴について、浜益村の正当行為を主張・立証し、同村の利益の擁護を計ることを内容とする訴訟委任契約を締結し、右契約に基づき委任着手金三〇万円を坂下弁護士に対し支払つたものである。
四 右訴訟委任行為及び村費の支出は村議会の承認決議を得ている。
第三証拠<省略>
理由
一 原告が、浜益郡浜益村の住民であり、被告が同村村長であること、訴外会社が被告個人を被告として本件別訴を提起したこと、被告が浜益村村長として同村予算から金三〇万円を支出し、弁護士坂下誠に支払つたことは、当事者間に争いがない。また、成立に争いがない甲第一号証、原本の存在及び成立に争いがない乙第四号証によれば、原告は、昭和五三年一月一〇日浜益村監査委員に対し、右金三〇万円の支出によつて浜益村が被つた損害を被告に返還させる措置を講ずべきことを求める監査請求をしたが、同監査委員は、昭和五三年三月一〇日右支出は違法でない旨の監査結果を原告に通知したことが認められ、右認定に反する証拠はない。
二 原告は、右金三〇万円は、被告が本件別訴について坂下弁護士と締結した訴訟委任契約に基づく委任着手金を村が支出したものであると主張し、他方被告は、浜益村自体が独自の訴訟上の利害により坂下弁護士と訴訟委任契約をなし、右契約に基づき右金員を支払つたものであると主張するので、この点につき検討する。
1 原本の存在及び成立に争いのない乙第一ないし三号証、第一〇号証、成立に争いのない乙第一一号証、証人坂下誠の証言、被告本人尋問の結果によれば、
(一) 本件別訴において被告は、弁護士坂下誠及び同伊藤信賢に対し訴訟委任をしたが、被告個人としては、右各弁護士に対し、委任着手金は支払つていないこと
(二) 被告は、浜益村村議会において、右金三〇万円支出のための補正予算案提案理由の説明の中で、本件別訴は被告個人を被告としているが、本件別訴で問題としている行為は被告が浜益村村長としてした行為であるから、右訴の応訴費用は、村が負担すべきものであると述べていること、を認めることができ、右認定に反する証拠はない。
2 以上の事実を総合すると、仮に浜益村と坂下弁護士の間に訴訟委任契約が締結され、右契約に基づき右金員が支払われたもので、かつ浜益村にとつて本件別訴において被告が勝訴することに独自の利益があるとしても、結局のところ、村の支出した右金三〇万円は、本件別訴における被告の勝訴を目的として支出されたものであり、反面、被告は本来負担すべき委任着手金の支払を免れたのであるから、右金三〇万円は、被告個人の支払うべき委任着手金を村が支払つたものと評価すべきである。
三 ところで、本件別訴が被告個人を被告とするものである以上、その応訴費用は本来被告個人が負担すべきものであるところ、村が右応訴費用を支出することは、実質的には公務員に対する給付と考えられるから、村は地方自治法二〇四条、二〇四条の二の趣旨からして法律に規定がない限り右のような応訴費用を支出することはできないものと解するのが相当である。従つて、本件において被告が予算執行としてした坂下弁護士に対する金三〇万円の支出は違法であり、たとえ右支出が村議会の議決に基づくものであつても、それにより適法となるものではないから、被告は、右支出行為により浜益村に対し、同額の損害を与えたものといわなければならない。
四 よつて、原告の本訴請求は理由があるからこれを認容し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 古川正孝 島田充子 富田善範)